イベント・展示

伊丹

2014.10.28

特別講演『韓国における図書館情報学の研究、教育の現状と課題:共同保存書庫事情にも言及して』が開催されました。

このたび韓国の啓明大学校 文献情報学科教授呉東根(Dong-Geun Oh)博士をお迎えし、「韓国における図書館情報学の研究、教育の現状と課題~共同保存書庫事情にも言及して~」と題して講演が行われました(主催:図書館学課程 共催:本学図書館、日本図書館研究会)。講演は韓国語で行われ、本学のチャン・キグォン教授による日本語通訳に約100人が耳を傾けました。

  • 特別講演『韓国における図書館情報学の研究、教育の現状と課題:共同保存書庫事情にも言及して』が開催されました。様子
  • 特別講演『韓国における図書館情報学の研究、教育の現状と課題:共同保存書庫事情にも言及して』が開催されました。様子
講演は、呉先生の専攻・副専攻との出会いから始まりました。呉先生は大学入学時に英文学を主専攻、文献情報学(日本の「図書館情報学」にあたる)を副専攻として学ぶうちに文献情報学の面白さを覚え、英文学へ戻ることができなくなってしまったそうです。副専攻としての文献情報学は主専攻に大変有益となるし、もちろん主専攻として勉強しても興味深い分野です、と図書館学を履修している学生たちを励ましてくださいました。
続いて「3Cの社会」について説明がありました。3CとはM. Hammer & J.Champyによる用語ですが、Change(変化)・Customer(顧客)・Competition(競争)で、「急速に変化する環境の中で、限られた数の顧客を確保するためには、他の組織/機関との競争をしなければならない。」という意味です。変化の激しい時代にある今日の文献情報学界ももちろん競争力を高めて競争に勝たなければならない、と新しい視点を示されました。

韓国では文献情報学関連の学科が35の大学に設置されていますが、呉先生の所属される啓明大学校は学部・大学院(修士・博士)・司書教育院・BK(Brain Korea:大学院生への国家支援制度)・CK(Creative Korea:学部生への国家支援制度)をもつ唯一の大学であるとのことです。司書資格は「図書館関連法令上の司書の資格」として、1級正司書、2級正司書、準司書という三種類があり、学歴と経歴により得ることができます。就職率は約60%で、公共図書館が半数以上を占めるそうです。資格を取得することによって卒業後の進路の選択肢が広がっているようでした。韓国の文献(図書館)情報学界をSWOT分析すると、S(Strength:強み)は学会と司書との強固な紐帯や人口当りの文献情報学科卒業生数が多いこと、W(Weakness:弱み)は文献情報学科の規模の零細性や臨時職司書の増加、O(Opportunity:機会)は文献情報学科卒業生の就職市場の拡大および多様化、図書館に対する地域社会の関心の拡大、T(Threat:脅威)は類似領域からの潜在的競争機関の登場や人口の減少、などを挙げられました。冒頭の3C理論に基づいてこの変化の時代を文献情報学と図書館は乗り切っていくべきだ、と結ばれました。

  • 特別講演『韓国における図書館情報学の研究、教育の現状と課題:共同保存書庫事情にも言及して』が開催されました。様子
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つぎに共同保存書庫事情について啓明大学校のある大邱市を例にして説明してくださいました。韓国では国立中央図書館を頂点にした公共図書館ネットワークが構成されており、各道(日本の県にあたる)の拠点図書館の資料保存を支援しているそうです。大邱市の公共図書館では廃校になった小学校などを共同資料保存書庫に転用したり、「小さな図書館」と呼んで一般の方にも開放したりしています。小学校は教育庁で管理されており、公共図書館とは管轄が異なるのですが、大邱市が教育に力をいれていることによりこれが実現されたそうです。さらに最近では地域ごとに工夫がなされたり、住民との対話の機会ができたりなど、新しい動きもうまれているとのことでした。
最後に聴講学生にむけてのメッセージとして、「現代は危機の時代」といわれているが、危機という語には「危険・危ない」というネガティブな意味と「機会」というポジティブな意味とが含まれている。ネガティブな意味よりも、危機を人生のチャンスととらえて取り組んでほしい。また、未来への変化は必ず訪れるもので避けられない、それならば楽しんでみよう、という力強い言葉をいただきました。
なお、この特別講演は本学科目「図書館情報資源概論」(前川教授担当)の特別授業として行われたものですが、一般の方がたにも公開しご参加いただきました。

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